材としての木造の良さ、200年越えの耐久性- 1級建築士 本告のコラム
木の家って、実際どのくらい持つのか?
「木の家って、実際どのくらい持つんですか?」
日々のご相談の中で、お客様からよくいただくご質問の一つです。
弊社では、木造住宅のリノベーションを手がけるなかで、築数十年の中古住宅から、100年を軽く超える古民家まで、さまざまな建物と向き合っています。

たしかに、木は自然由来の素材であるがゆえに、湿気やシロアリ、地震や火災といったリスクに不安を感じるのも、無理のないことだと思います。けれど実際には、日本各地には、築100年、200年を超えて今なお現役で使われている伝統的構法の木造建築(いわゆる古民家)が数多く残っています。そうした建物を見ると、「木造住宅の寿命は短い」という一般的なイメージは、必ずしも正確とは言えないことが分かります。
木造住宅の寿命を考えるうえで、まず押さえておきたいのは「木」という素材そのものの特性です。自然素材であるため、「劣化が早いのでは?」と心配されることもありますが、実際には、木材は非常に優れた建築材料です。100年どころか、適切な条件が整えば、数百年にわたって高い強度を保ち続けることも可能です。
住宅の構造の種類と特徴
▶ 木造住宅
在来木造(軸組工法)
概要:柱と梁で構成された、日本の伝統的な構造
主な特徴:間取り変更の自由度が高く、リフォーム適性が高い
ツーバイフォー(2×4)
概要:木のパネル(面)で構成される北米発祥の構法
主な特徴:耐震性・気密性に優れ、一定の規格で施工性が高い
▶ 木造 / 非木造
プレハブ(工業化住宅)
概要:工場で生産されたパーツを現場で組み立てる方式
主な特徴:品質の安定性が高く、施工期間が短い。木造・鉄骨造など複数の構造種が存在する
▶ 非木造住宅
軽量鉄骨造
概要:主にプレハブ住宅に用いられる鉄骨構造
主な特徴:劣化が少なく安定的だが、間取り変更が難しい
重量鉄骨造
概要:厚み6mm以上の鉄骨を使った頑強な構造
主な特徴:耐震性・耐久性が高く、大規模建築に向く
RC造(鉄筋コンクリート造)
概要:鉄筋を組み、コンクリートで固めた構造
主な特徴:耐火性・防音性に優れ、マンションなどに多い
木造住宅と一口にいっても、実際にはさまざまな構法がありますが、私たちがリノベーションの中心に据えているのは、「在来工法(軸組工法)」で建てられた住宅です。柱と梁を組み合わせて構成されるこの工法は、日本の伝統的な住宅づくりに根ざしており、構造上の自由度が高いという大きな特徴があります。
建築素材としての木材のメリット・デメリット
メリット
軽くて強い構造がつくれる
木材は単位重量あたりの強度に優れており、地震の多い日本においては、構造体が軽いこと自体が耐震性の確保につながります。
乾燥すれば数百年持つ素材
十分に乾燥した木材は腐りにくく、むしろ時間とともに強度が高まることさえあります。実際、古民家再生の現場では、乾燥した柱は切るのに苦労するほど堅く、耐久性の高さを実感します。
古民家再生の現場では、傷んだ柱を交換することがあります。そのときにノコギリで切っていて感じるのが、「乾いた木は驚くほど堅い」ということ。乾燥状態のよい部分は、製材時よりも強度が増していることもあり、切断にも時間がかかります。一方で、湿気を含んだ部分はまだ柔らかく、腐っていなくても容易に切れるほど。木材の“乾燥”が、耐久性のカギであることを現場で実感する瞬間です。
入手のしやすさ
地域ごとに適した木材が流通しており、比較的安定して調達できる点も木造住宅の利点のひとつです。
加工のしやすさ
手工具でも加工が可能な木は、リフォームや補修の際にも柔軟に対応しやすく、現場での微調整がきく素材です。
デメリット・注意点
火災に弱い
木は燃える素材ですが、実は鉄骨造も高温で変形や倒壊のリスクがあります。いずれの構造でも、設計段階で必要に応じた防火対策が重要です。
湿気に弱い
含水率が25%を超えると、木材は腐朽菌やシロアリの被害を受けやすくなります。正しい乾燥状態を保ち、適切な換気や防湿対策を施すことが長寿命化の鍵となります。
工法としての在来木造のメリット・デメリット
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メリット
間取り変更や増改築への柔軟な対応
柱と梁で構成される在来工法は、壁の位置を大きく動かすことができ、ライフスタイルの変化に合わせた間取り変更や増改築に柔軟に対応できます。
長寿命化に対応しやすい構造
たとえば築50年の住宅であっても、骨格である柱や梁を活かしながら、断熱・耐震・水回りなどの性能を現代水準へ引き上げることが可能です。
構造補強の自由度が高い
耐震補強を行う際も、壁の配置を調整しやすく、補強計画の自由度が高い構造です。適切な設計と施工によって、安全性を確保した住まいへと再生できます。
構造設計が比較的シンプル
基本的に耐力壁の配置をベースに構造設計が行えるため、経験豊富な建築士による計画であれば、リノベーションにも柔軟に対応できます。
デメリット・注意点
高い気密性能を得るには工夫が必要
気密性の確保という点では、ツーバイフォー工法などに比べてやや不利な面があります。断熱材の施工精度やサッシ選定、細部の納まりに注意を払う必要があります。
在来工法木造住宅「何年持つの?」
「木の家って実際どのくらい持つんですか?」
結論、「木材は、乾燥していれば、数百年もちうる素材」です。
私たちが手がけている物件でも、築浅から築50年、なかには200年を超える住宅に出会うことがあります。木材がしっかり乾燥していて、必要な補修や補強が行われていれば、これらの建物は現代の暮らしに合う住宅として、さらに長く使い続けることが可能です。実際、私たちが関わる古民家再生の現場でも、江戸時代に建てられた住宅が、今なお住まいとして現役で使われている事例は少なくありません。
木の家は築年数で寿命が決まるものではなく、適切な維持管理。特に乾燥状態を保つことで長寿命化することを是非、知っておいてください。
古さを活かして、古さに負けない性能を。
- 耐震性
- 断熱性
- 住まいの快適性
- 日々の使いやすさ
- 将来的なメンテナンス性
使いづらい、寒い、地震や地盤による変形など、骨組みは良くても、リノベーションが必要な住まいのご相談を数多くいただきます。
乾燥した木材は、年月が経っても高い強度を維持しやすく、構造補強によって耐震性能も現代の基準に近づけることができます。また、断熱材の充填や開口部の断熱強化により、冬の寒さ・夏の暑さにも対応できる快適な住環境が実現します。さらに、家族構成やライフスタイルに合わせて間取りを見直したり、収納や水まわり動線の改善を行うことで、日々の暮らしやすさを大きく向上させることも可能です。加えて、将来のメンテナンスを見据えた素材選定や、設備の入れ替えがしやすい設計にしておくことで、長く安心して住み続けられる家に整えていくことができます。
「古い=劣る」と思われがちな住宅も、現代の生活に合った、価値ある住まいへと再生できるのでご安心ください。
木造住宅(在来工法)のポテンシャルを活かしながら、時代の変化とともに多様化する暮らしのニーズに応じて、必要な性能を高めていく。リノベーションという選択肢が、新築と並んでごく自然に検討される。そんな住まいの選び方が、少しずつ当たり前になりつつあります。
その一端を担えるよう、住まいの可能性を、私たちの視点からご提案できればと思います。
